マレーグマの頭のなか

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サンマの肝

 

生のサンマを買った。

いつだったか、不漁で高騰してたのを毎年思い出すせいで台風が過ぎ去って、

涼しい風が吹くようにになっても値段すら気にしていなかった。

 

買った。だってYouTubeの芸人がサンマを食べる姿を見て食べたくなったから。

食べる姿で美味しそうだと感じるのは、食らうのが素人だろうが玄人だろうがなんら関係ない。

ネコが食べていても食べたくなるだろう。ちゃおちゅーるは例外だ。

 

くちばしは黄色いのが良いらしい。

サンマの下唇のことだ。

大根おろしは既に擦ってパックしてあるのを買った。

最近は便利なものが売っている。

さすがコンビニエンスストア、コンビニエンスだ。名前に商品も負けてない。

「サンマとおろし」があるだけで100点満点中95点は取れる。

あとの5点はすだちだが、残念ながらスーパーに置いてなかった。

だが合格には十分だろう。これでサンマの東大に合格だ。

 

いつもは干物しか買わない。干物が美味くて好きだから。

でも、生サンマは今の時期しか食べられないから仕方ない。

干物のコンフォートゾーンから抜け出す必要も人生には必要だ。

生は中までしっかり焼かないといけない。干物よりも時間がかかる。

持久戦だ。何度パンパンと身体から銃声のような音が聞こえても辛抱をしなければいけない。

その間に他の料理を済ます。今日はめんどうなのでメイン以外は雑だ。

時間が余るので、サンマの焼ける音を聞きながら瞑想をする。腹が鳴る。

 

はるか昔にサンマのために100均で買った長い皿に、その身体をゆっくりを置く。

チューブから大根おろしをひねり出す。なんとも味気ない光景だが、仕方ない。

大きな大根からこれだけの大根おろししか取れないのかとがっかりするよりも幾分マシだ。

 

いただきものの、三角形で、先が細く、使いやすい箸でサンマの身を割る。

ジュワッと魚の油が出て、ホクホクの身が現れる。感謝。

おろしに醤油をかけ、一緒に食べる。美味い。最高。

 

うちの父は ”ねこまたぎ” だ。顔と背骨と尻尾以外、皿に何も残らない。

そんな肝まで食べてしまうねこまたぎが羨ましかった。

サンマの肝をまだ美味しいと思えたことがなかった。

 

何かの幼虫のような見た目はやっぱり避けた。が、食べてみることは決めた。

父の半分も生きてないとはいえ、そろそろいけるかと黒い部分を口にした。

うん、苦い。

サンマの味のような、何か別の味のような、自分の食べ物の味の範疇からは外れてるかな。

でも昔よりは苦く感じない。でも美味しくはない、と思う。

ただただ加齢によって舌が鈍麻してしまっただけだろうが、これも少しの進歩かもしれない。

ビールが飲めるようになったように、肝もいつか美味く感じるようになるだろう。

 

黒く、苦く、気持ち悪い形のものもいつか克服できるだろう。

理想像や先を歩いている人がいれば、希望がある。

自分で見つける必要があれど、方法もきっとある。

あと何度、秋が来るのかは分からないが、秋が来る度に試してやろう。