マレーグマの頭のなか

文章を 書くだけなら タダ

傷の跡

 それは右手の甲、人差し指と親指の直線状に交差するあたりにある。

 

 ここのところは常に寝ぼけているのか、年齢の割に機敏な動きができずに歩いて振り回している手を不意にどこかにぶつけることがままある。そうすると何かに引っかかったような傷ができる。皮膚がめくれ上がり、そこからじんわりと温い血が浮き上がってくる。大した痛みもないのでそのまま放置していると、数日経つと傷が塞がり元どおりになっている、はずだった。今までは。

 最近じゃ、傷の治りがすこぶる悪く、上記のような傷跡もしっかりとしみのように色素が沈着してしまって赤黒いような跡が残るようになっている。虫刺されの跡なんかもそうだ。治りが悪く、跡になっていることが増えた。

 

 10代の若かったときは、転んでできた傷は無数にあった。腕の擦り傷も膝のひどいめくれ方をしたコケた跡も、ジュクジュクになってしまったそれらの傷も、今や全くもってその痕跡など残っていない。そのときを忘れるかのように、全てなくなっていった。

 文頭に書いた、右手の甲の傷は、いつ怪我をしたのか憶えている。会社のトイレの個室の鍵のところに偶然ぶつかって傷ができたのだ。傷跡がある限りずっと覚えているだろう。30も目前になると、記憶力が段々と薄れて何をしても忘れてしまうから、体が何があったのかを残しておくために傷跡がそのままになっているのだろうか。

 

 確かに傷があれば、いろいろなことが思い出される。