マレーグマの頭のなか

文章を 書くだけなら タダ

くだらない嘘

 

 聞いた瞬間に真実か分からない嘘をつくやつがいた。もう10年以上前のことだ。そいつがつく嘘は「おばあちゃんが北海道出身(実際は石川)」とか「身長は181cm(実際は184cm)」とか「靴を去年買った(実際は半年前)」といった毒にも薬にもならない嘘。別に誰も傷つくことはない嘘。すぐに嘘だとバラす嘘。嘘をついた瞬間に嘘だと分かる顔をしてしまう嘘。

 僕もたまに対抗して分からない嘘をついたりした。割と難しい。嘘の内容は、時間を伸ばしたり血縮めたり、場所を移し替えたり、名前を替えたりといったパターンが多かった。なんのために付くんだろうと考えたが、結局分からなかった。分からなかったついでに「どうしてこんな嘘をつくんじゃい」と聞いてみたら、本人も明確な意図があるわけじゃないことも分かった。この返答が嘘だと思う方もいるかもしれないが、ここで嘘をつくのは真実かどうかなんて顔を見ればすぐ分かることなのでただの邪推だ。

 

 そいつとはもうずっと仲が良くて、大学時代の親友を一人挙げろと言われると、そいつが真っ先に挙がる。未だに年間数回は会って、ご飯を食べる。いつのまにか嘘をつかなくなっていた。それが寂しいかと言われると、そうでもない。というかつい最近までくだらない嘘をついていた事実をさっぱりと忘れていたくらいだから。

 そいつはくだらない嘘をつけなくなったんだと思う。僕らが仲が良くなったからでも、信頼しているからでもない。嘘をついても、顔に気づけなければ時間がかかるかもしれない。あの頃は毎日会って、毎日部屋に入り浸っていたから気づけた機微があった。そう思うと、ただただもったいない。僕らは実家の母親と父親にあと何時間一緒にいられるのか。それを計算したことはあるだろうか。もう約一ヶ月しかいられない。それと同じことが、僕とそいつの間でも起こっている。両親よりももっと短いだろう。そう考えると、嘘よりももっと知ってほしいことがたくさんあるだろう。10年以上前、最も長く一緒に過ごした時間でしかつけないくだらない嘘だった。

 

 僕は昨年末に結婚したが、図らずもそいつも昨年末に結婚した。僕の二日前だ。そいつは新たにできた家族に対して、ずっと一緒にいる家族にたいしてくだらない嘘をついていると、僕は確信している。