マレーグマの頭のなか

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大人になること

 「ふしぎの海のナディア」を最初から見返している。実は全部通しで見るのは初めてかも知れない。NHKで再放送していたのを、小さい頃に飛び飛びで見ていただけだから。昨日は話の折返しである17話「ジャンの新発明」を見て、不覚にも泣いてしまった。

 

 あんまりしたことないが、簡単なあらすじを書いておく。この回の一つ前の16話で、主人公の一人の男の子ジャンは生きるための目標を失ってしまった。1話からずっと「船乗りだった行方不明の父親を探すこと」が目標だと言っていた。彼が船や飛行機など様々な発明品を作るのは、単に作りたいからではなく、世界中を回って父親を探すためだった。そんな父親がこの世から既に去ってしまっていたことが分かったジャンは次の目標を探していた。

 一方でもう一つのテーマが浮き上がる。それは「子供から大人になること」だ。ジャンは自分が子供であるからできないこと、させてもらえないことが手に余るほどあることに気付く。ノーチラス号の正式な乗組員になって、父親の仇を討つ。ネモ船長に「手を汚すのは我々だけで十分だ」とはねのけられる。早く大人になりたいと焦るジャンが、周りの大人の手助けもあって少しずつ自分のすべきことを理解していく。

 結局、ジャンはナディアのために空を飛ぶ機械としてヘリコプターを作る。そしてプロボーズにも似たセリフと共に、新しい目標をナディアに告げるのだった。

 

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 アニメや小説なんかは自分が今どんな立場にいるかで誰の立ち位置と重ね合わせて読み取るかが変わってくる。ポジショントークならぬポジションリードだろうか。昨日の0083でも同じで、最近は僕がマネジメントやってたりするからか、それぞれが集団の目標に向かわず、自分のやりたいことをやっていたキャラクターに対して苛立ちを覚えていた。

 20年以上前に見ていた僕は当たり前のように主人公であるナディアたちに自己を投影していただろう。今は周りの大人たちに自己を投影していると、思う。今回のナディアの大人たちは復讐をするために人殺しを厭わない集団の中に、子供たちがいるという構造をしている。その中で大人たちは子どもたちが間違った道に進まないように進めている。大人の仕事、子供の仕事、それぞれのやらなければいけないこと、やるべきことは違うことを視聴者に語りかけている。

 

 今回は印象深いセリフが多い。

ジャン「子供じゃ夢は叶えられない…ただ追いかけてるだけだ」

ランディス「おとなに勝てるのはおとなだけだからさ」

サンソン「自分のことは自分でけりをつけるもんさ」「自分に何が出来て、何が出来ないのか分かるようになりゃ、一人前だな」

ハンソン「子供は素直に、大人を頼ればいいんだ。それが大人の仕事だからな」

 

 そして、この回のクライマックス、完成したヘリコプターで空にナディアと二人きりになったときのジャンのセリフがトリガーだった。

ジャン「ねぇナディア、やっと分かったよ。(何が?)今までの僕とこれからの僕さ。僕はこの船に乗って勉強を続けるんだ。科学だけじゃない。世の中や大人の世界も勉強する。今は空を飛ぶだけだ。それじゃ君をアフリカには連れていけない。でも、君を守ることができる大人になったら、必ず連れてってあげるからね!」

ナディア「うん、待ってる!」

これを言い切った瞬間にこみ上げるものがあり、めためたに泣いてしまった。ブルーウォーターのアコースティックなBGMと共に耳に入ってくるこのセリフから、ジャンのとても静かな成長が感じられた。

 

 他にも上記のセリフを調べていると、庵野監督の語りが出てきた。

 「『どうしておとなになるの?』とナディアが聞いたところで、グランディスに『おとなに勝てるのはおとなだけだから』っていわせて茶化してます。そういう答えってこちらでだせるものではないですからね。見ている人にも分かる時がくるから、その時に分かればいい」*1

  当時見ていた僕は意味もわからずこのシンプルで複雑な疑問を胸に留めていられただろうか。これを今見ている僕は30歳のおじさんになってしまって、やっと分かり始めた。ナディアが名作と呼ばれるのは制作陣が豪華なわけではなく、そこにある人間の成長が美しいからだ。

 

 今日の2時に姉の子どもが生まれた。おめでとう。僕もノーチラス号にいるような子どもを導ける大人たちになれたら。

 

*1:ぼくらは「ナディア」から、女の子との付き合い方を学んだのだ :https://www.excite.co.jp/News/reviewmov/20120405/E1333574035332.html?_p=3