マレーグマの頭のなか

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タラコとウニとイカと俺と元カノ

 吉祥寺のスパ吉の「タラコとウニとイカ」のスパゲッティが好きで、いつも注文していた。およそ9年前、当時付き合っていた彼女が三鷹から東村山へ引っ越すまでのおよそ二年間、僕は調布から出る吉祥寺行きのバスに乗り、駅前で待ち合わせをして動物園デートをしたり、その後にスパ吉に行ったりと思い出も多い。ただ、今となっては吉祥寺に行くことは少ない。その頃からの付き合いの美容室に行くことくらいで、既に阿佐ヶ谷や高円寺に行くための乗換駅となっている。それでもたまの気分で吉祥寺に寄った際はスパ吉の前の行列を確認し、想像より人が並んでいなければ食べることにしている。そんな「タラコとウニとイカ」を、先日、現住所からたった十分のところで食べられることを知った。それはたまたま寄ったスパゲッティ屋さんで、この幼稚園児でも分かるスパゲッティの名前を見た瞬間、注文が決まった。味変のためのレモンが傍らに無いこと以外は見た目も匂いもスパ吉のそれそのものだった。スプーンとフォークで掬って味を確かめると、まさに望んだ通りの味。思わず彼女にも一口食べてみてと促した。わざわざ食べさせて「美味しいよね」と共感を求める行為はなんなのだろうか。ちらりと浮かぶハタチの頃の元カノの顔。ヴェルタース・オリジナルのおじいさんが孫に分け与える気持ちがこれなのか。特別な気持ちか。愛情か。愛憎か。結婚に向けて粛々と準備中の今、それでも昔の彼女との思い出も自分の一つなんだと、思う他はなかった。