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マレーグマの頭のなか

文章を 書くだけなら タダ

さくらを見に。

 朝起きた。いつもより15分だけ、何故か早く目が覚めた。いつもより寝覚めはよかったはずだが、五層に重ねられた布団が余計に暖かく春の訪れとさらなる睡魔を呼び出した。布団から出たくないなと、枕元に置いてあるノートパソコンを起動し、YahooやSNSはてなブックマークを半目で何が起きているかなと眺めていた。9時になっていた。出社の時間だ。

 どうにも会社に行きたくなかった。行きたくなかったから桜を見に行こうと思った。代々木公園に行けば桜が見れると思った。その短絡的なアイデアを実行し、布団から脱出するのに時間はかからなかった。「30分遅れます」そうメールして身支度を整えた。いつもより身軽な格好で外に出た。朝ごはんは食べてなかったのでセブンイレブンに寄ってから行こうと決めた。玄関のドアを開けると霞がかった気持ちも春の陽気に照らされたのか少し晴れてきた。いつもと違う、左に曲がる丁字路を、前を歩く知らない人についていくように右に曲がった。今日は30分遅刻していいという余裕が自分を自分たらしめていた。それがなかったらおそらく自分は自分ではない何かとして会社に行っていただろう。

 行き止まったり知らない道を歩いて公園に着いた。そうだな、感覚が共有できるかどうかは分からないが京都駅から四条烏丸マクドナルドくらいの距離を歩いたので、太ももや股関節の周りが少しむずがゆく、運動不足なことを悔いた。公園に着いたら、坂を下る自転車と、それに必死について走る名前も無さそうな雑種犬が目に入った。彼の健気さに笑った。目を上げるとまだ冬枯れの木々の中にうすらピンクの花が咲いていた。これを見に来たんだ。

 5分咲きの桜にたかる酒を浴びるパリピ達を横目に、少しだけゆっくり二分咲きのさくらの写真を撮ったところで満足した。気持ちとリンクしない天気は少し曇ってきたが、春休みの子どもたちは続かないバトミントンに声を上げて喜んでいた。いつもより人の多い原宿を通って渋谷に向かい、いつも通りに会社へ歩いている。いつもより30分遅い出勤はいつもより30分長い一日の始まりだった。